Subeatleoの自作ルーム

 

連載小説 静まりし二つの羽根2 第17話

パワーシフト

レクは一旦、丘を下り、月の見える麓の街で休息をとった。 そこでは月と太陽とそして大地が絶妙の折り合いをつけ夜が来れば月が昇り、夜が明ければ自然と太陽が昇る当たり前の時間によってその変化が感じられる街だった。 イエムがまた古文書を読み解こうとしている。 各々の和の二乗はおのおのの二乗プラスそれと二倍のそれぞれの掛け合い。 太陽と月が共演する夕方の空ではどこか月はすこしその色合いを青白く現実味を帯びてその姿をレクにやきつけていた。 三者のそれぞれの掛け合いが水平線の下に沈み込む太陽を時に演出したりする。 ダイム王の今、修復を行っている次元結界とは。 人がその地球の公転を信じ始めたのは中世の事だったらしい。 それまでは地球自体が動いているのではなく、太陽が地球のまわりを回転しているという説が一般的だったらしい。 意外と時空修復とはその人の脳裏に刻まれた風景を一新するだけの作業のような気がしてレクはならなかった。 この大自然の時空は太陽系に浮かんだ惑星が同じ軌道を描くように繰り返すドラマにすぎないのだ。 巻き起こった次元流が嘘のように静まり、まるで何事もなかったように時を刻む。 四次元、時の流れはその存在は目に見る事はできないがたしかにその歩みを止めようとはしていない。 エノシはゼラルドから派生したその鎧とコンパスを頂き王となり、さらに次元流を普遍に返す事によって己を時に返そうとしていた。時とコンパスが一体となる時、その絶妙なる羅針はその方角を南回帰に記そうとしていた。子午線が両極とかみ合わさり、ダイムの桜時計はその時間を五種の守りとして合わせる任務を追った。時の守りてとなるべくしてなったダイムは次元のひび割れを嫌いエノシと対立する運命を追ったかにこの時見えた。しかしエノシとて時を南に回帰に導いたにすぎず、そのコンパスの回転はいわば地球の自転でその水火の計りは時の正さしさを必要とするものだった。 いわば二人の王の利害関係は一致しているのである。 エノシはダイム王に尋ねた。 ダイム王よ桜時計の森においてもしも山が水を打つならそのコンパス狂いはしないか。 ダイム王は答えた。 水は火を安んじます。 水すくなかれば、自ずと雨が降り、その水量、コンパスの定めるところにしたがって復活の道を 歩むところとなります。 森は水火の計に従いてその形を移ろわせ行くでしょう。 その時にすくなからず、過去とそして未来の間に次元流が生じますゆえわたしはそれを直しゆくのみなのです。 実に回帰なるは雨の歩みかな。エノシ感服仕りました。 妙法蓮華に座し、その絶妙をただ感じ行くときその必然をしりました。 ゆえに志すところ空即といえましょうな。 その炎は元来、文明によるものと自然の太陽によるものの二つに分かちこのエノシとともに時をわかってくれぬか。 このダイム王、元来は大自然こそ文明の妨げになるやあきらかゆえ、それに打ち勝つ努力と歩みを致して居る。 そなたの考えるほど自然はなまぬるいものではない。 このダイム自然をいのままに操る事などできぬのを心底自覚しておる。 そなたのいう、空即とやらにそのヒントがおわかりか。 空即はただの視野にうつる色合いの示すところに過ぎぬのでないかな。 ダイム王は先ほどそのコンパスが自ずと復活への道を歩ませるとおっしゃったではないか。 たしかに申した。 このコンパスの水火の計りが水すくなくば雨を降らせ、多ければ日増すところにするとしかしこの コンパスとて計器に過ぎぬのだ。それで雨が降るかどうかは確証なぞどこにもない。 ただこのコンパスが知らせるだけなのだ。 実に自然とは紙一重の事であるな エノシとダイム王は妙に息を合わせていた。 本来、自然が自然だけであり、文明なくばその多くも少なくも嘆く間もなく順天は繰り返されていたであろう。 だが人が水辺の地域に住み、その推移に日夜怯えるようになり、その考えは危惧へと変化した。 それこそが次元流かもしれませんぬな。 さからえばさからうほど、その水勢増すところになるかもしれませぬな。 いやそうはなりますまい。 とにかく備えを打つべくところに打つそれだけではござらぬか。 資金がいりますゆえ。 黒い算段だな。 ダイム王は顔をしかめた。 エノシもできればなにも起らぬことを装いながらその金策に苦労しているのが現実なのだろう。 水火の計のその中身はその実、マネーゲームのパワーシフトに過ぎぬようにどこかこの時 ゼラルドには映りだしていた。  

第16話へ戻る

インデックスへ戻る

第18話へ