Subeatleoの自作ルーム
静まりし2つの羽根2 第51話
逆転のトライアル
イエムの目に光の輝きが少し宿る。一面に揺れる湖面にルナのしらべが木魂する。ロ長調の悠然としたリズムの中で目を閉じると、イエムはそこに白鳥の影をみた。
度重なる次元収縮の波紋の中でその解に三国の成立をみたイエムであったがその空の軌道をはるかに凌駕する大きな波紋がそこでは広がっていた。
それは青春のさなかどこかでそれをみた甘酸っぱい思い出に似ていた。
このままXの引き影が0を返していくなら、心の中のレクのピストルが弾け飛ぶ。レクのその精密な射撃能力は類をみないものではあるが、そのもととなるXをしめす座標の影が消し飛ぶならそれは0に返る事になる。粒子が左右に乱れるダイムの時間城の中をイエムは這い上がっていく。もう少し行けばこの核にたどり着けそうだ。
X:Y:Z=0:1:2
レクのカリキレーションがそのバランサーの解を弾き出した。
空が西から東へと雲を運んでいく。
木立が風で揺れている。
あと3秒で原点回帰が始まる。レクは思った。
あくまでそれは現在のベクトルがマイナス方向に進行していると仮定するならそれはそのはずである。
レクは冷静にダイスを宙に投げた。
ダイスは稲妻でピタリと静止した。
フィフティー、フィフティー。
つまりそのYのONEを中心に考えればその進行経路のZに道は2つあるという事か。
その目の前には4つに区切られた角部屋と、ダイスのさくらに切られた太鼓の遺跡が広がっている。
どちらに進むか。
やっかいなことになった、忘却のティアラに酔狂、なかなかやってくれる。
ミラスは悠然とした姿勢でその動向を水晶で見守っていた。
ゼラルドは度重なる変異を経て、時間軸の中でもその座標を正確に指し示す水火の計の計りとティアラを手にしていた。
そして一度はそこを去った12使徒がふたたびゼラルドの元に結集していた。
黄泉への進軍で大きな痛手を追ったゼラルドであったがその前進力でそれを克服していたのである。
イエムは少し迷いながらそのダイムの時間城の中核を目指していた。
それを水晶でミラスが眺める。
火の王エノシはセキトを捨て、ナイルの城にその陣を敷いていた。その数やわずかである。
あのセキトを放棄したのはいささか痛かった。
セキトはもはや黄泉の王ミラスのフェタルの砦と化していた。
そしてこの世界に黄泉の王の覇権が色濃く広がりつつあった。
さぁ~次は何をやってくれるぼっちゃん。
水晶をミラスは凝視している。
イエムは慎重に回廊を昇っていく。
ダイム王はいずこか。
レクはすでにそのダイムの時間城を出る準備にとりかかっていたが帰り道に迷っていたのである。
その帰路のYがONEからZの未来形の2つに分岐していたからだ。
何かイエムがここへ来る気がする。
レクは足を止めた。
ゆっくりとした時間が流れていく。 -つづくー