Subeatleoの自作ルーム
連載小説 静まりし二つの羽根 第20話
イエムの真言。
イエムは今日も回廊に向かっていた。
壁の間に挟まった老婆の言葉を思い出していた。
積乗の根は三つ。
その分岐はどれも過去の自分のあるべき姿でそこにとどまり続けている。
貴方が自分からそれに別れを告げない限りそれは失われる事はないだろう。
運命と夢とそして天国と
イエムの記憶の中の老婆は先刻のベニス、一ミリの尺度を幾重にも理解している。
羽根が三羽重なったか。
老婆は笑みをもらした。
うっすらとしろい陽炎のような蜃気楼の中で羽根がイエムに降りてきた。
ここに時空管理人の資格を君に与える。
分岐技師の機械歯車はその任をとかれる事はもはやないだろう。
イエムは20年前の事を振り返っていた。
僕が生まれてまもないころ。
父さんは星に白クジラを追いかけていたと僕に話した。
白クジラと父さんの仲は非常に深い。
今思ってみればそこにいくら巨石を投じようともその長い銛に
クジラが屈する事はないだろう。
グローブは掴んだ守り人は嬉しそうにイエムに微笑んだ。
壁のばあさんを解いてやんな。
ばあさんはあれが趣味だからいいんだよ。
イエムはおどけた。
僕はばあさんの趣味がわかるのかい?
僕の趣味はこの石碑。
ばあさんの趣味はあのハザマ。
なんてたってこの重い僕を背負い投げでポンと投げるんだ。
凄いにきまってるだろ。
重心について君は理解したかい?
重心ね、重心。
なんだっけ?
困ったもんだ。
君に時空の仕事をやってもらう以上は君にもそのGさんにも
本当のことをみんなにちゃんと継がせないといけない。
僕だけがしっていても、私だけがしっていても。
真言が真言でなくなれば。
それは虚実を立証できたことになるからね。
上から読んでも下から読んでももどってきて同じなら僕は真ん中にいるって
事になる?
それだから君は君の虚実を立証し、竪琴をもとにもどせた。
今君のいるのは夢の世界かい?
それとも現実かい?
イエムはうとうととなってしまっていた。
サルーインとの会話はいつも以上に疲れるし、イエムにとって重い。
君の言う天国がもし本当の天国を食うために作られたのなら
それでも君はそれを残すのかい?
そんな事はあり得ないよ。
彼の海の親たちはみんな天国のような広い心の持ち主だった。
当然その子供も天国に決まってる。
第一あの扉はキーばあちゃんじゃないと開かない。
コーヒー屋の豆の香りが回廊に満たされた。
そろそろ休みにしよう。
イエムは幾分か右にうった体をほどき椅子に腰かけた。
クロックは3.33にぴったりだ。
君のお菓子さ。
イエムはバリバリとせんべいをかじって横になった。
大きな青空がイエムの前に広がっていた。