Subeatleoの自作ルーム
静まりし2つの羽根 第4話
迷いの処刑場 わが13の問
レクはくたびれた刑務所の脇を足早に歩いていた。
刑務所内では一人の男が独房から呼び出された。
「呼び出しだ。」
男はくたびれた階段を一段、一段、上がっていく。
過去と未来、比較と対称。
どちらも崩れのない美しい男だ。
レクはふと足を止めた。
嫌なところに出くわしちまったな。
その男は強制わいせつ、暴行、刺殺の罪で15年、服役していた。
男の瞳にはまったく曇りがない。
まるで運命を受け入れるように。
普遍という言葉を用いるなら純粋とはこの男の事だろう。
刑務所にはこの男が地をたがやし、植えた桜が大きな花を咲かせていた。
レクに男は語り掛けた。
「俺には迷いはないが、俺は法を犯した覚えはない。」
男に目隠しがかけられた。
鈍い銃声が響いた。
男はゆっくり床に倒れ込んだ。
レクは目をつぶりひらくと掌に握っていたダイスを見つめた。
ダイスの表には雷が出ていた。
レクは背中になにか重い物を背負い込んだような錯覚を覚えた。
一面には緑の欅にしずくが残っている。
レクはがたがたいいながらタバコを取り出すと火をつけた。
タバコになかなか火がつかない。
横をとおりかかった革の黒いコートの女性がレクに向かって言った。
「死ぬまで嘘つきなのね。」
女性はレクのライターに手をあてた。
火がゆっくりとともり、タバコに火がついた。
女性の甘いにおいと複雑な気持ちとが雨に混ざった。
「ありがとう。」
レクは足早にバスに乗り込むと次の停車場の霊園をこえ
駅にたどりついた。
駅では人身事故のアナウンスが繰り返されていた。
報復を止める勇気」
イエムはいつものように畑に今日はたわわに実ったナスの実を採りにでかけた。
畑は薄暗く、カラスが鳴いていた。
すると節向かいに座った老人がイエムの顔に拳を食らわした。
「馬鹿野郎!そりゃ俺の植えたナスだ。俺のナスに近づくではない!」
イエムはわけがわからなかったが、70を越えた男が自分の畑がどこであるかわからなく
なっているのが目に取れた。
イエムは倒れ込んだ。
なにしやがると思った。
しばらくしてその男の妻らしき女がイエムに謝ってきた。
「ごめんなさいね、うちの亭主そこが自分の畑だと誤解していたみたい。」
イエムは納得が行かなかった。
意味もなく殴られたのだ。
そしておまけに泥棒呼ばわりされていた。
しかし、怒った所でどうこうできる問題ではない事に気づいていた。
イエムは土を払うと。
自分の畑にクワの実を一つ植えた。
イエムの母親は牛蒡のササガキを作っているところだった。
「さぁキックオフね。結局やりかえさなきゃ駄目なのよ。」
母親はぶつぶついいながら大豆をすり下ろすと豆腐の上に思い切り振りかけた。
「ほんと、ダイスって嫌い。」
イエムはたんこぶを作りながらテレビを見ていると
「物体の干渉速度は速さが早いほど大きくなり、それは慣性宇宙航行の並列進行だ。などと解説していた。」
イエムの友達が電話をかけてきた。
「お前、老人に殴られたって?馬鹿だな~」
イエムの父親がラジオを聴いている。
「恋をしたのも泣いたのも~いいえ貴方とこの私~。」
母親は夕飯の支度を作り終えると
「イエム、分岐なんてものを無理になおしちゃ駄目よ。」
庭の杭を見つめながら母親が言った。
イエムはなにか意味なく追いつめられている事を感じながら畑沿いを歩くと
ローズマリーの美しい香りが鼻に入ってきた。
「バカイッテンジャナイヨー、バカイッテンジャナイヨー。」
「時の人」
レクはさっき書き換えたばかりの運転免許の顔写真を見つめた。
無表情の自分の顔がある。
つぎの駅で降りた。
桜が一面に咲いている。
露店でペンを売る女性が話しかけてきた。
「乗りたいなら緑でマークしな、載せてやるから」
レクはさっきの事を思い出した。
ダイスを思い切り梨園の看板に投げつけた。
ダイスは砕けてバラバラになった。
「わかった、買う、おばちゃん」
レクは新聞とペンを買うと競馬場へ向かった。
競馬場では早くも5Rの障害戦が行われていた。
「ドルトルレイク 今、振り切ってジャンプ!」
アナウンサーが大きな声で実況をしていた。
レクは新聞に目を通した。
調教師のコメント。
「この条件では力が出せるはず、1叩きして変り身充分、期待している」
レクはこのコメントに線を引いた。
ポケットに手を突っ込んだ。
ダイスはもうなかった。
ペン回しを何便かしていると。
傍らの男がレクに話しかけた。
「あんた、ギャンブルで泣いたことがないだろ。」
レクは少し考えると
「次、あんた何を買った。」
男は答えた。13点流し
フォーメーション 1-4-5 から 2―5 3―7 複勝 ビックリベンチャー
レクはいいだろう。
「オヤジ、いくらかけた?」
「100円ずつで1300円だ。」
レクは単勝 11番にマークをつけると13百円にマークし、パドックを離れ窓口で馬券を買った。
レースが始まった。
5F-60.7
レクの背中にTシャツが汗でまとわりついた。
レクの勝った11番、の追い込み馬は徐々に順位を上げていったが三位に入着
することはなかった。
「リザーブシート今、振り切ってゴールイン」
11番の単勝馬券は泡に消えた。
レクは言った。
「オヤジの勝ちだ。」
オヤジは言った。
「壁のばあさんにお礼言っといてくれ。」
レクは少しダイスを投げた事を後悔していたが、緑のペンを風になびかせると
「まあこれも悪くない、教養の足しってやつさ。」
「種族に問う」
イエムはさっきから犬とにらめっこをしていた。
ほとんど犬に吠えられる事のないイエムだがこの犬とだけは相性が悪い。
「よしよし、よしよし」
犬はイエムが寄れば寄るほど吠える。
「ガリバーが旅行をした時に小人がガリバーを救った。お前も大人になったらわかるさ」
イエムの父は微笑んだ。
家に帰り、その晩。
父はそういって夕食のサンマ缶をつつきながらワインを飲んだ。
「お前も計算ぐらいもっと正確にできるようになんないといけないぞ。」
母は、蕪の皮を向き、面取りをするとそれを薄く切って酢に浸しケースに詰めていた。
「真ん中にあてるぐらいでペンをもらえるなら私だって何本もつけるわよ。」
母はぶつぶつ言っている。
テレビではたまごやきの鉄板を職人が売っている。
「ほら!こんなに簡単」
イエムは、ボーっとテレビをみていたが、そんな簡単なはずないだろうと思った。
「これが梨くずしというやつよ」
母がぶつぶつと言っている。
イエムはお風呂につかると体がいつの間にか真っ赤になっている事に気づいた。
すると一人の男がイエムの家に訪ねてきた。
「どうかパンを一切れ別けて頂けないか。」
男は貯金箱の栓を抜くと、大量の一円玉をそこにぶちまけた。
「銀3元ほどあります。」
イエムは朝に買っておいた食パンを全部男に渡した。
僕の食べる分、なんですが、おじさんのその銀の代わりにあげるよ。
男の瞳に光はなかった。
男はつぶやいた。
「もちつ、もたれつ、ですから」
イエムはその夜、銀紙を自分のペン入れにさし込んだ。
ペンは夜でも明るくなった。